残業を片付け始めたその時から・・。
慌しかった1日がおわりてっきり疲れきってしまっていた。昨日も遅くまで残業したし、今日は早めに帰ろうと帰る準備をしていたところ。「佐々木部長」と私を呼び止める声が・・。
「ちょっとお時間ありますでしょうか?」
今日、一人でブランチを摂っていたときのこと後ろから「直子」と下の名前で私を呼ぶ声がしたので振り向くと数年前に私を振った彼が立っていた。別れてから仕事場では仕事以外の話をした事がなかった私たちであったが「直子」と呼ぶからには今回は何か違った用件に違いない。
確かに私たちの周りには誰もいなかったけれど私は「直子って呼ぶのはやめてよ、もうあなたの彼女でも奥さんでもないんだから。」もちろんいち誰に見られるか分らないので適度な距離を保ちつつ向き合って座った。「で、突然何の用件?」「今朝ニュースでやってた札幌の火事。確かなお、いや佐々木部長の実家が札幌だったと思って親御さん大丈夫かなと思って心配になったから。「あっ、その件ね、それは今朝実家に連絡して両親二人とも無事だったわ。実際に確認したから大丈夫。ただ他の友人とかまで確認できなかった、朝だからいろいろ忙しいでしょ。ご心配どうもありがとう。で用件はそれだけ?」「うん、それだけ。そうか無事だったか。それは良かった。じゃあ。」
なんだ別れた女の実家まで覚えていてくれるなんてやっぱり彼は優しい人だったんだ。それも安否を気づかってくれるなんて。そんな彼と別れてしまったことを後悔はしているけれど。仕方ないかれにふられてしまったんだもん。彼みたいな人はもてるわよね。なんか私もお母さんも似たような人を好きになって同じような失敗をしてるわ。フッフッフッ。でも私の場合は未遂で済んでるけどね。久々に彼の優しさに触れて今までの疲れがだいぶ楽になれた。
そんな事があった昼下がりと同じ日に信じられない事実を知ることになった。
それはそろそろ帰ろうとしたときに知ることになる。彼と同期のまた以前私たちが付き合っていたことを知る数少ない社員。彼とも私たちが付き合っていた頃はよく何人かで食事をしたり飲みにいったりしていたが、彼と別れてからはそういった機会は全く減った。ま当然と言えば当然なのだが。
すると彼が今日の夕刊を私に見せた。「これ」と言って。彼が差し出した新聞には今朝の火事の直後に携帯で撮られた現場の写真が載っていた。その写真を見て私は自分の目を疑った。なぜならそこには以前付き合っていた(昼に自分の両親の安否を気遣ってくれた)彼の姿がはっきりと映っていた。
もちろん現場の写真でここからは遠く離れている。しかし朝一番の飛行機に乗ってくれば会社の出勤時間には間に合う。
しかしなぜ彼が、とその時とても嫌なことを頭が過ぎった。
彼は私に自分を抜かれて出世した事がどうしても許せなかったらしい。
そこで結婚もしていない私なら両親が死ねば会社を辞めて実家に戻ると思ったらしい、前の日に仕事が終って北海道に飛び、私の実家の何件か隣を放火した。」それで朝一番の飛行機で東京に戻ってくれば会社に間に合う。もちろん犯人が彼だと疑う人はいないだろう。私の両親がどうなったかは後で確かめれば問題ない。
もし私が今日会社を休んでいれば間違いなく作戦は成功していると判断できる。しかし実際は違っていたから。それで昼間私に確認したんだろう。そうしたら私から両親は無事だという知らせを聞く。彼の作戦は失敗に終った。彼はこのまま黙っているはずだったか、それとも次の作戦に取り組むつもりでいたのか?しかしそれもこれまでだ動かぬ証拠を手に入れてしまったのだから。